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>> 現在、消費増税を巡る議論が百出しておりますが、私は経済の専門家ではありませんので、増税には反対である、という以外これを論ずることが中々出来ません。ということで今回もまた、歴史にその答えを求めて、近世・江戸時代に起こった大規模な増税反対一揆を振り返ることを通じて、現代を考えることと致しましょう。
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>> 1754年から1759年に至る宝暦年間、美濃国=現在の岐阜県郡上市一帯で、大規模な一揆が起こったのをご存じの方も多いと思います。これを「郡上一揆」と呼びます。元号を取って「宝暦郡上一揆」と呼ばれることもあります。この郡上一揆は、山中一揆(1726)、三閉一揆(1847)と並ぶ江戸三大一揆のひとつですが、規模と期間を考えると、間違いなく江戸時代最大の一揆といえることでしょう。
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>> 当時の美濃国郡上一帯は、金森頼錦(かなもりよりかね)を藩主とする郡上藩が統治しておりました。この金森氏というのは、戦国時代、代々織田信長、織田信秀(信長の父)に仕えた清和源氏の流れをくむ名族の家系です。
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>> 当時の郡上藩は、財政難に苦しんでいました。そこで、領内の年貢のとり方を、定免法から検見法に変更する、という決定を下したのです。
>> 前回、前々回の当メルマガでは、江戸時代の税率を決める際、その母数となった石高を決める作業を「検地」といい、全国的な検地は、江戸時代において慶長年間(1596-1615)の慶長検地一回きり(無論、各地域で大小の検地はその後もありますが、長くなるので簡略的に書きます)だった、とお話ししましたが、これは基本的には天領=徳川家の直轄地だけのお話で、それ以外の◯◯藩というのは、差はありますが独自の検地を実施していた場合もありました。
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>> 江戸時代は全般的に、天領の税金は低く、諸藩の税金がそれよりも高い傾向があり、一揆が多発したのも天領ではなく諸藩です。郡上藩も、財政難から「増税」を行った、典型的な小藩のパターンを踏襲しています。
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>> さて、定免法というのは収穫に関係なく一定の年貢を課す定額制、検見法というのはその年の収穫高によって年貢を決める従量課金制で、一般的に定免法のほうが負担が高い…と前回お伝えしました。それに従うと、郡上藩は定免から検見に変えるのですから、表面上「減税」を行なっている様に思えます。しかし、実際は違ったのです。
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>> 郡上藩は新田開発で増加した農民の隠田(=秘密の耕作地)まで正確に検地し、税の取り逃がしを徹底的に排除するために検見法を導入したのです。つまり、農地からの収穫を細かくチェックし、徹底的に税を補足することが可能な規模の、2万石とされる小藩であった郡上藩にとっては検見法の方が結果的に都合が良いのです。このように定免・検見という年貢のとり方は、時と場合によっては増税にも減税にも成り得たのです。
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>> 「不作の時は税が安くなるから…」という騙し文句を使って、定免から検見にすることを強引に納得させようとする郡上藩に、農民はしだいに怒りがたまっていきます。そして1754年、連判状で決起を誓い合った農民たちによって一揆が発生します。これこそ、以後5年にわたって続く長い長い郡上一揆の始まりだったのです。
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>> 郡上藩は、なぜ農民の反対を押し切って増税に踏み切ったのでしょうか。諸説ありますが、藩主の金森頼錦が「奏者番」(そうじゃばん)と呼ばれる幕府の要職に任命されたのが原因だとされる見方があります。奏者番は、将軍と各大名等を江戸城で取り次ぐ案内役のような役職で、とうぜん仕事上色々な人々と面会しますから、必然的に人脈が派手になります。
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>> 人脈が広がれば、色々な旨味も増え、時として贈収賄にも発展します。頼錦は、おそらくこの奏者番を成し遂げることによって、若年寄、老中などといった、幕閣(現代風に言うと大臣クラス)への出世の野心を抱いたのでしょう。関係各位に賄賂を送ったり、上役に忠誠心を見せるためのカネが、郡上藩にとってはどうしても必要だったというわけです。
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>> 特に、上役からの歓心を買いたいため、郡上藩は「御手伝普請」と呼ばれる幕府発注の公共事業を率先して請け負う事となったのが決定打でした。「御手伝普請」というのは、江戸幕府が諸藩の大名に命じて行わせる、主に土木工事のことです。江戸時代の公共工事は、原則として幕府がその建設費を負担するのではなく、命令された諸藩が連座で請け負う、という仕組みになっていました。
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>> こうやって幕府は国庫を痛めること無く、他藩に出費を強制する事によって各藩をコントロールし幕藩体制を支えていたのです。指名された藩は、工事が成功するよう、自腹を切って事業を行います。失敗すれば出世は出来ず、成功すれば幕閣に取り立てられる…。まさに江戸時代の公共工事は人事競争と一体でもあったのです。うまい具合に考えたものです。江戸時代が260年も続く秘訣の一つです。
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>> 結果、郡上一揆は都合5年に及んで藩主・金森頼錦は領国経営の失敗の責任をとって改易(班の取り潰し)。彼は謹慎先の岩手で失意の中、死にます。一方、頼錦から何らかの賄賂を受け取っていたであろう、幕閣の老中、大目付など主要なメンバーまでもが罷免に及ぶという、江戸幕府最大の疑獄事件に、郡上一揆は発展して終結するのです。
>> 出世に目が眩んだ頼錦が、そのしわ寄せを自国領民に強いたことから始まった郡上一揆は、最終的に藩の滅亡を以ってその代償を払うことになったのです。
>> 一方、立ち上がった農民の中心メンバーにも、獄門(公開処刑)が言い渡されるなど、厳しい現実に直面しますが、結果的に郡上一揆は成功で終わります。
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>> 現在、郡上市では、理不尽な増税に反対して死罪となった農民の霊を慰めるため、義民記念碑が建立されています。また、この郡上一揆をモデルにした映画『郡上一揆』が神山征二郎監督によって2000年に公開されました。
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>> この映画は、岐阜県や岐阜JA等、地元有志の全面的な協力の下、3500人にも及ぶエキストラを用いた、日本映画史上空前のスケールで行われた傑作となっております。
>> 私は、昨年この映画の上映に併せた解説会を、東京の国立近代フィルムセンターにて行わせていただき、沢山の方に来て頂きました。作詞家のタイラヨオさんも一緒にトークして頂きました。増税、増税と、暗い話題ばかりが先行する現在、かつて、我々の祖先が、生半可な決意などではなく、文字通り本当の意味で「命をかけて」増税と戦い、そして実際に死んでいった事実を、我々は決して忘れてはならないのです。
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