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2012年7月31日火曜日

Fw: asyu HS 生活保護 210 万人時代、何が問題なのか?  バブルに溺れた元経営者を支えるヤミ金の「生活保護受給マニュアル」 :MR

>生活保護210万人時代、何が問題なのか?  バブルに溺れた元経営者を支えるヤミ金の「生活保護受給マニュアル」
>http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/201.html
>HS 201 2012/7/31 00:56:12
>投稿者: MR
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>生活保護210万人時代、何が問題なのか?
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>2012年7月31日(火)  連結社
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>1つのテーマにも様々な見方がある。このコラムでは、1つのテーマをめぐって対照的な考え方をまとめた2冊の本を紹介する。今回のテーマは「生活保護」だ。
>働ける世代の受給者が急増
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>『NHKスペシャル
>生活保護3兆円の衝撃』
>NHK取材班
>宝島社 1300円
>ISBN978-4-7966-9713-2
> 本書は昨年9月に放送され大きな反響を呼んだNHKスペシャルを書籍化したもの。大阪市の生活保護の実態を追った取材班がとりわけ注目するのが、 2009年以降に受給者数が急増したことだ。その直接的な原因は、リーマンショック後に厚生労働省から、働く能力がある世代の受け入れを認める通知が出されたことにあるという。
>
> 「働ける世代」の受給者数増加は、一方で生活保護をターゲットにした「貧困ビジネス」を拡大させた。その典型的な手口は、路上生活者やホームレスに生活保護を申請させた後、アパートやマンションに囲い込んで、生活資金をかすめ取るというものだ。
>
> NPO(非営利組織)を隠れ蓑にした貧困ビジネスのカラクリを浮き彫りにしていく第3章、大阪市と貧困ビジネス業者との対決を描いた第4章など、取材班は生活保護の闇の部分に焦点を当てている。
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> 働く能力のある人々が生活保護に流入することを食い止める対策としては、厚生労働省が設けた、生活費を受給しながら半年間職業訓練を受けられる制度や、生活費や家賃を低金利で借りることができる制度を紹介している。だが、その効果について、本書は否定的だ。
>
> 取り上げられている事例の多くは、現行の生活保護制度では自立に大きな困難を伴うことを物語っている。制度の改善案として、受給期限の設定と自立支援プログラムの強制、受給中の就労賃金を凍結預金口座に預金できる制度などが、識者の発言とともに提言されている。
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>社会保障制度の矛盾を反映
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>『2ルポ 生活保護
>貧困をなくす新たな取り組み』
>本田 良一(ほんだ・りょういち)
>中公新書 819円
>ISBN978-4-12-102070-3
> 北海道新聞の釧路支社で編集委員を務める著者は、2005年に生活保護行政の流れが変わったと指摘する。その象徴的な出来事として、厚生労働省が自立支援プログラムを作成するように各自治体に指示したことと、北九州市で生活保護に絡む孤独死が相次いだことを挙げる。その結果、「05年を節目に生活保護を巡る動きは機械的な『適正化』から、人間の尊厳を尊重し、受給者の視点に立った路線へ転換を始めた」と評価する。
>
> もちろん、現行の生活保護を含めた社会保障には多くの問題もある。まず、日本の税制や社会保障制度には、所得再分配機能がほとんどなく、むしろ子供の貧 困率を悪化させている。年金支給額や最低賃金との逆転現象も起きている。雇用保険の支給条件も切り下げられた。著者は「いま、生保受給者が増加しているのは、ほかの制度の矛盾をすべて生活保護が受け止めているから」だと断言する。
>
> 本書では、生活保護行政の新たな展望を開く先進的な試みとして、北海道釧路市の自立支援プログラムを紹介している。日常生活の意欲向上、ボランティア活動、就労体験など成人向けのプログラムのほか、子供に対しては高校進学支援プログラムを用意しており、経済的自立に限定しない日常的な自立、社会的な自立を目指している点が特徴的だ。こうした試みを通じて著者は、受給者を社会的に包摂するための支援拡充を強く訴えている。
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>Webで読む対書対論
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>1つのテーマについて対極的な観点で書かれている2冊の本を取り上げる。両方を読むことで、そのテーマを新しい視点で俯瞰的に見ることができるようになるのではないだろうか。
>http://business.nikkeibp.co.jp/article/book/20120730/235088/?ST=print
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>経済・経営・社会 開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に
>【第5回】 2012年7月31日
>第5回
>バブルに溺れた元経営者を支える
>ヤミ金の「生活保護受給マニュアル」
>
>生活保護「不正」受給問題の報道が世間を賑わせたのはそう昔のことではない。しかし、井戸端会議の話題として消費される芸能人の離婚報告のように、生活保護問題の本質に目を向けられることのないままに、私たちの記憶からも薄れ始めていることは確かである。
>社会学者・開沼博は、元会社経営者のM、そしてMの生活保護受給を斡旋するヤミ金業者Kに密着する。そして、彼らと同行するなかで、役所との想定問答集や担当者の実名と特徴までもが記されている、驚愕の「生活保護受給マニュアル」の存在を突き止めた。
>メディアでは、強者による「正義の代理論争」が展開されていたが、「純粋な弱者」を前提とした議論からは決して見えてこないものがある。社会の複雑さをあぶり出す開沼博渾身のルポ。連載は全15回。隔週火曜日に更新(第6回は8月21日(火)更新予定)。
> 競馬話に花を咲かせる生活保護受給者たち
> 平日の午前中、区役所近くの喫茶店。50〜60代の7人の男たちが談笑している。
> 「先週のG1(レース)はさー」「持ってる券、色々転売したいんだけど、中古チケット屋でどこかいいのあるかな?」
> 彼らの話題は多岐にわたるが、少なくとも「まともな社会人」のそれでないように見える。昼も近づいた頃、一通り話が落ち着くと「じゃあそろそろ」と誰かが言った。「今日は俺が……」と声を出したのがMだ。
> Mの「保護変更決定通知書」には「差引支給額 120,530」と明記されている
> 会計のためレジの前に立ったMは「領収書、頂戴」と仲間に聞こえるように言った。そして、宛名を聞かれると「○○区役所で!」と大きな声で答える。お得意の「生活保護受給者ネタ」が披露されると、皆が声を出して笑った。
> 昨年還暦を迎えたMのもとに「生活保護決定通知書」が届いたのは、今から3ヵ月前。5月初旬のことだった。以来、毎月の決まった日になると生活扶助が約8万円、住宅扶助が約4万円。合計12万円を生活保護として受給している。
> 会計を済ませた彼らは、「おー、どーも」「お疲れーまた」と声を掛け合って解散していった。
>次のページ>> 出版社とバーを営んでいた元敏腕経営者M
>
>出版社とバーを営んでいた元敏腕経営者M
> 今でこそ想像すらつかないが、Mはかつて会社を経営していた。居住地の近くにある商店街に3階建てのビルを丸ごと借り上げ、1階と2階部分では「バー」を、3階では本業である「出版社」を営業していた。
> 彼が経営するバーは、毎晩店の外に人があふれるほど大盛況。一方、マルチ商法まがいのビジネスに手を染めていた会社を取引先として、書籍の製作・販売を請け負っていた出版社の経営は対照的だ。
> 取引先の社長と良好な関係を築いていたときは順調だった。発注された部数を印刷すればすべて買い取ってもらえる、「間違いない商売」ができていたからだ。しかし、相手の経営が傾いてくると、「これまでお前の会社を支えてやっただろ。その分を返せ!」と次第にムチャな要求をされるようになり、金銭トラブルへと発展していった。
> 取引先を失って出版社経営の雲行きが怪しくなるなか、当初はその赤字をバーの売上で補っていたものの、それすらも困難な事態へと陥ってバー兼事務所の家賃を数ヵ月滞納した挙句、昨年11月末に会社をたたむこととなった。
> Mが真っ当な経営者としての資質を備えていたのかはわからない。ただ、若かりし頃に尋常ではない羽振りの良さを見せていたのは事実である。
>バブル経済の先導者は「即死」もできない
> 大学を卒業して職を転々としながら過ごした20代を経て、Mが腰を据えたのは出版業界だった。時は80年代半ばから90年代初頭のバブル最盛期。Mの仕事はといえば、バブルに踊る日本経済を一層煽り立てることであった。
> 雑誌や夕刊紙の編集者への営業で執筆枠が確保できると、当時話題になっていた店や流行の文化を紹介する。実際の取材や執筆を自身で行なうことはなく、下請けのライターに指示を出しさえすればよかった。
> バブル絶頂期のマスコミ業界の景気の良さは「今から考えれば狂っていた」と、当時を知る者たちは語る。上司から「毎週20万も経費の枠を取ってやってるのに、何で使いきれないんだ!」「新宿や渋谷なんか行くな!飲むならまず、銀座に行け」と怒られたエピソードなどは決して珍しい話ではないという。
> 執筆を依頼してくれた雑誌・新聞社から原稿料をもらう一方で、記事で紹介した店側からも「ぜひまた。今度は別の媒体でもうちの記事を」と、円高の今であれば海外旅行にも行けてしまうほどの「お車代」が手渡されることも日常茶飯事だった。
> Mは「バブル消費煽り」の最先端に虚ろな情報生産工場を建設し、それはそれで勤勉に、落ちてくるカネを必死にかき集めていた。毎日のように記事の掲載枠を確保するための接待に勤しみ、人柄の良さを最大限利用して確保した枠をひたすら埋めていった。
> そんな時代が続くはずもなく、文字通り、バブル経済は泡のようにはじけてしまった。しかし、バブルがはじけたからと言って、それがMにとっての「即死」を意味するわけではなかった。散り散りになりながらも残っている泡をかき集め続けることで、「真綿で首をしめられる」ように、破綻へのカウントダウンがジリジリと進む20年が始まったのだった。
>次のページ>> バブル後遺症から手を出したヤミ金の世界
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> 家賃3万2000円のボロアパートに夜逃げ
> Mが経営していた出版社への執筆依頼は徐々に減少し、依頼された記事の単価も下落。経営は目に見えて悪化し、経費も使えなくなっていった。お抱えのライターを有効活用できればと始めたのが冒頭の「出版社」での取引だったが、それも長続きするはずがない。残された体力の消耗を極力抑えるために、記事1本あたりで支払っていたライターへの報酬額も引き下げていった。
> 経営は悪化の一途をたどっていたが、Mにとってせめてもの救いは、「自分を表現できそうなマスコミの仕事」に夢を見て寄ってくる若くて安いライターが常に存在していたこと、そして、バブル崩壊前から経営していたバーに入ってくる多少の利益だった。
> 現在Mが暮らすアパートの部屋には、バブルを謳歌した元経営者の面影などまったく感じられない
> しかし、その体制でも維持できないほどの状況に陥ってしまい、バー兼事務所と自宅双方の家賃を滞納したすえに会社をたたんで夜逃げ。家賃3万2000円、共同玄関・共同トイレのアパートの一室へと移り住むことになった。
> Mの手元に残ったのは、「今もつき合ってくれる数少ない人との繋がり」、そして「カネ回りがよかったときのメンタリティ」という捨てきれないガラクタだけだ。
> ところが、である。人生を賭けて築いてきた「生きるための拠点」をすべて失ったかに見えたMを救い、安定的な「収入」をもたらしたきっかけは、なんとそのガラクタだったのだ。
> バブル後遺症から手を出したヤミ金の世界
> Mは、事業収入が目に見えて減少するなかでも、それまでと変わらぬ勢いでカネを使い続けていた。毎晩のように飲みに出かけ、高級料理に舌鼓を打つ。当然、天からカネが降ってきたわけではない。不足分を金融機関からの借入で埋め合わせていたのだった。
> 年間利子が数%の金融機関から始まり、借入できるところを探していく。5%、8%、10%、12%……。ついには、年利20%を超えるいわゆる「ヤミ金」にも手を出した。変えられない生活と、出版社の赤字を補填してくれるバー経営を維持するために、数年前からMはヤミ金の泥沼へと足を踏み入れていた。
> 一方、ヤミ金は「衰退産業」となってきたと言える。2000年代半ば以降、ヤミ金を規制する法律・制度が急速に厳格化されていった。司法や消費者運動によって、多重債務を抱え、暴力的な取り立てに苦しむ者たちの存在が明らかにされてきたからだ。
> 制度が改正された結果、貸し付けた相手に警察へと駆け込まれた時点で、ヤミ金業者は回収不能になる。実際、貸し倒れを重ねて自らも借金を積み上げた結果、ヤミ金の世界から足を洗う者も少なくなかった。
> しかし、だからといってMが救われたかというとそうではない。利子を除いてもすでに数百万円以上の債務を抱えていた。Mがヤミ金を告発した場合、ヤミ金による取り立てと同様、もしくはそれ以上に苦しむことになるのは明らかだった。
> それは、信用情報が金融機関へと出回っているため、もはや合法的な手段では借金などできないからだ。ヤミ金との関係が切れてしまっては、カネが入ってくるルートがなくなってしまう。 
> つかず離れずの関係でヤミ金に支えられてきたM。そして今、「生きるための拠点」を失おうとしているMに新たな「拠点」の在り処を持ちかけてきたのは、ほかでもない、ヤミ金の担当者Kだった。
>次のページ>> 「生活保護、取りましょう」ヤミ金担当者からの誘い
> 「生活保護、取りましょう」ヤミ金担当者からの誘い
> 「じゃあ、うちで用意した家に住みませんか?カネも返せますよ」
> 数年間にもおよぶつき合いのなか、Kが声を荒げるようなことはなかった。「親身になって話を聞いてくれる」と表現しても言い過ぎではない対応である。この日も、返済額と返済時期を相談するいつもの電話がかかってきたと思って近況を伝えていたら、突然そんな話を持ちかけてきた。
> 「○○区で物件探すんで、そこで契約してください。今の家と近いでしょ。そして、生活保護、取りましょう」
> 「生活保護か……」とMは思った。実は、生活が破綻した時すでに、生活保護に頼らざるを得ない事態も想像はしていたのだが、考えるのをすぐにやめてしまった。まず、手続きが難しい。また、たいした金額をもらえないために質素な生活になるというイメージがあった。それは無理だ。
> 知人から、地元議員や貧困者支援のNPOに相談して受給できたという話を聞いたこともあった。議員の所属政党やNPO職員が役所に同行して担当者に圧力をかけてくれると耳にしたが、その条件として、相手の小難しい「説教」を何度も聞いたり、彼らの「集会」や「自立支援活動」に参加しながら、関係を長期的に維持することが必要だとわかると「なんか面倒だな」と感じた。結局、「まあ、なるようになるだろう」とまたしても考えるのをやめてしまったのだった。
> Kの話は続いた。
> 「めんどくさいことはないです。仕事も用意しますよ。1回研修して、うちの言ったとおりやってもらえば大丈夫なんで、とりあえず明後日の午後とか空いてます?」
> とりあえず話だけでもと、その日に行く約束をしてMは電話を切った。
>次のページ>> 恐怖の演技指導、台本は「生活保護受給マニュアル」
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>恐怖の演技指導、台本は「生活保護受給マニュアル」
> 約束の日、Mは都心にあるタワーマンションの高層階に向かった。通された部屋で待っていたのは、Kではなく別の男だった。目つきは鋭く、体も大きい。
> 「まあ、そこ座って」
> すでにもう一人、初老の男が座っていた。Mはその隣に腰掛けた。
> 想定問答が記されたマニュアル
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> 「じゃあ、マニュアルだから、これ読んで」
>[※自分の言葉で(言葉ではなく内容を覚える)……]。はじめは、そこに書いてあることが何を意味するのか、皆目見当もつかなかった。「マニュアル」という割には、単に会話文が羅列されているだけの荒いつくりである。しかし、読み進めるにつれて、これが役所でのやり取りを示すものだということを理解できた。
> 「いいか、上から1個ずついくぞ。最初は見てもいい。爺さんがやって、あんたがやるっていう順番な」
> Mに男の目が向けられた。
> 「まあ、まず音読しろや。じゃあ爺さん、『今日はどうされましたか?』。はい」
> 初老の男性は黙っている。すると、目の前から怒鳴り声が飛んできた。
> 「字ぐらい読めるだろ!『生活の相談がしたくて来ました』だ。言え!」
> 小さな声で「生活の相談がしたくて来ました」とつぶやく声が聞こえる。
> 「はい、同じ。『今日はどうされましたか?』」
> Mも「生活の相談がしたくて来ました」と答える。
> マニュアルには、[→相談室へ]と書いてある。そこでMは気がついた。役所に入ってから、相談室の窓口に言って何を言うかまでのすべてをロールプレイングすること。そして、随所に[→1度の返答は短く、ひとつだけ]などと書かれているように、自然な受け答えができるよう血肉化させられるということを。
> 頭ではなく体に叩き込むセリフ
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>[——たくわえなどはないのですか 例 まったくないです。この3日間なにも食べてません]
>[——親戚や友人、知人でたすけてくれるような人はいませんか 例 まったくいません]
>[——今手持ちの現金はありますか 例 100円ちょっとしか多分ないです→ポケットから小銭を出して見せる]
>[——自己破産を考えないのか 例 やり方教えてもらえますか]
> それぞれの項目をひとつずつ、マニュアルを見ずに自分の言葉で伝えられるようになるまで、相手からの問いかけは続く。
> 数回も通したら、Mはすべての質問によどみなく答えられるようになったが、初老の男性は10回近く通すことになった。つまずくたび、そして不自然な言葉遣いになるたびに「そんな言い方普段しねえだろ!この野郎!」と罵詈雑言が飛んでくる。
>次のページ>> 部屋をゴミ屋敷に、家賃は最低2ヵ月滞納……驚愕の指示が
>
>「部屋をゴミ屋敷にしておく」「家賃を最低2ヵ月間滞納する」
>マニュアルには自治体担当者の実名や特徴まで明記
> その日に暗記させられたマニュアルには「対応(1)」と「対応(2)」が存在する。「対応(1)」は、自治体の福祉事務所に行って生活保護申請を行なうまでの、先述したような具体的やり取りが書かれている。そして「対応(2)」は、各自治体担当者の実名や特徴などが詳細に記されていた。
> 役所の対応を先回りして「準備」
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>[○○区の○○(50後女):子どもの話を出すといける 例 「結婚したばかりの子どもに迷惑かけるわけにはいかないんです」]
>[○○区の○○(30前男):現在のカネの出処詳しく聞いてくる 例 実はヤミ金なんですけど、もうこれ以上はつまませないと言われて来ました]
> そして、暗記させられはしなかったが、一度だけ音読させられた数枚のマニュアルもついてきた。それぞれ「準備」「担当」「ご案内」と書いてある。
> 「準備」には、[・印鑑 ・預金通帳(家族全員分)、過去1年分、記帳済みのもの ・家賃賃貸契約書……]と生活保護の受給申請に必要となる準備書類が。「担当」には、各地区の担当者名と連絡先、報告書などやるべきことが書かれている。
> 詳細な指示が記された「ご案内」
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> さらに「ご案内」には、役所に向かう前に必ずすべきことが書かれていた。そこには、ハローワークに行き、求職実績をつくっておくことなどと同時に、たとえば、
>[部屋をゴミ屋敷にしておく]
>[金目の物がある場合、正直に申告し、こちらで預かることとする]
>[家賃を最低2ヵ月間滞納する]
> といったことなどが記されていた。また、生活保護申請日の行動として
>[当日はこちらで車を用意します(集合時間厳守のこと)]
>[申請当日はこちらで用意した服に着替えてもらいます]
>[マニュアルの文言通りではなく自分の言葉で話すこと]
> と具体的な指示が繰り返される。さらに確実に生活保護を受給させるためのダメ押しとして、
>[ケースワーカーが生活状況調査に来るので、部屋の中に生ゴミを放置、異臭をただよわせておく]
>[ケースワーカー訪問時は布団に横になって対応]
>[(場合によっては)こちらの指定病院へ行ってもらい、診断書を取ってもらう]
> という申請後の行動までも言及されていた。
>次のページ>> 受給者に同じアパートが斡旋される2つの理由
>
> 生活保護支給日にはヤミ金担当者が車で送迎
> 数週間の準備を経て申請を果たしたMには、後日、生活保護支給決定の通知が届くこととなった。
> 現金が入った「保護費支給袋」
> ケースワーカー訪問の事前連絡を受け、用意した生魚とラーメンの食べ残しで演出した生ゴミの臭いにはM自身もまいってしまったが、訪れたケースワーカーは3分と経たずに部屋から出て行った。
> 現在、毎月の支給日になると、Kによる送迎で役所の窓口に生活保護を受け取りに行く。そして、12万ほどの支給額のうち、半額を渡したところでKは帰っていくのだ。Mの手元には残額と、役所の窓口で配られる1ヵ月分の銭湯入浴券が握られている。
> 「あと、保護証明書を見せれば菓子パンとかリッツとかももらえる。もらった金を使い切っちゃった人用のね。ただ、ビニール袋に入った炊き込みご飯とかスナック菓子も置いてあるんだけど、あれはさすがにもらえないな。人間の尊厳の問題っていうかね」
> Mは「カネがない生活ってストレスたまるのよ」と言いながら、競馬・競輪、酒代として1週間と経たぬうちに残額を使い切ると、まず、残りの銭湯入浴券を中古チケット屋に転売する。そして、そのカネも尽きるとKに電話をかける。
> 「カネはもうあまり借りれないから、仕事をもらってる。工事の作業場とかの力仕事もあれば、パチンコの打ち子もある。あと、飲み屋のボーイとか、病院で『眠れないんです』って言って睡眠薬もらってきたりとか。それは、一緒にKさんにお世話になってる人に聞いたんだけどね」
> 受給者に同じアパートが斡旋される2つの理由
> 実は、Mが住むアパートには、同じヤミ金業者の債務者であり、生活保護の受給者が住んでいる。そのアパートが選ばれる理由は大きく2つある。
> ひとつは、生活保護受給を促すのに適当な家賃と間取りであること。当然、高級物件であれば「もっと安いところに住むように」と役所から言われてしまう。また、ヤミ金業者が生活保護の「原価」となる家賃を抑えるために、2段ベッドを詰め込んだ部屋に集団で生活保護受給者を住まわせる時期もあったが、今では認められなくなっている。
> もうひとつは、そのマンションが比較的高級住宅が立ち並ぶ地域にあるということだ。低所得者が住む地域では、近隣の行政機関が大量の生活保護申請を処理することとなり、相対的に見て環境が良好と判断された場合、受給が認められないことも多い。しかし、この地域であれば、そもそも申請者数が限られているため、競争も少なく、安定的に生活保護受給が認められ続けるというわけだ。
> Kはこのアパート含めて、斡旋したいくつかの住居を回りながら「客」を車に乗せていき、役所まで連れて行く。そして、それぞれの受給額の半額を回収して帰る。残った受給者たちは、喫茶店に立ち寄って世間話をし、互いの「仕事」の状況などの情報交換を行ない、場合によっては給料日を迎えたサラリーマンのごとく飲みに行ったりするケースもあるという。
>次のページ>> 生活保護「不正」受給問題は何を生み出したのか
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>生活保護「不正」受給問題は何を生み出したのか
> Kが所属するヤミ金業者は、貸し付けたカネを確実に回収するために生活保護の受給斡旋を始めた。実働部隊は前述の講習担当者を含めて3名ほどで、年齢はみな30歳前後。生活保護を受給させながら20名ほどの客の管理をしているという。
> 生活保護「不正」受給問題が世を騒がせたが、すでに過去のものとなった感を少なからぬ人が抱いているだろう。しかし、言うまでもなく、ことの根本にたたずむ問題そのものは何も変わっていない。変化があったとすれば、生活保護にまといつく「社会の脱落者」としてのスティグマ(負の烙印)がより強まったということだ。
> 生活保護「不正」受給に関する議論を大きく整理すれば、次のように言えるだろう。
> 一方には、「家族なんだからカネを融通しようと思えばできるだろう」という「モラルハザード」「フリーライダー」論によった批判。そして他方には、弱者を攻撃する議論に対して「全員が家族の扶助に頼るべきなどと言ったら、本来保護されるべき人が生活保護をもらえなくなり、弱者をより顕著な弱者とさせてしまう」あるいは「家族に頼ることを前提とした社会福祉は限界だ、もう古い」という批判。
> いずれも、それなりの「正当性」を持った見解である。フリーライダーの存在は解決に向かうべきであり、当然ながら、「弱者のさらなる弱者化」も問題だ。そして、両者は互いの正当性を信じているが故に議論がかみ合うことなく、互いを否定し合うなかで問題はいつの間にかうやむやになっていく。
> 非就業者が家事を手伝いながら就業する家族の収入で生活する、あるいは、介護は家族が担うというような「家族による福祉」の時代をもはやこれからの前提とすることはできない。「家族による福祉」から解き放たれた個人を社会的に支える「社会による福祉」の構築が望まれるが、合意可能なこれという具体策をなかなか見出すことのできない状況が続いている。
> 「純粋な弱者」を前提とした論争の先に隠された事実
> しかし、ここで考えるべきなのは、弱者がみな聖人君子、「純粋な弱者」である必然性などないということだ。
> 「弱者とされ社会制度の中で保護される者は、制度設計上、本来想定されている『純粋な弱者』であるべきだ」と批判するにせよ、あるいは「たしかに『悪い弱者』もいるかもしれないがそういった人はごく一部であり、一部を強調することによって『純粋な弱者』が追い込まれるのは好ましくない」と訴えるにせよ、そこには聖人君子たる「純粋な弱者」が無意識の前提として念頭に置かれてはいなかっただろうか。
> 「純粋な弱者」を想定することによって成立する「相対的強者」による代理論争は、仮に盛り上がりを見せたとしても、それによって置いていかれてしまうものがある。それはM、だけではもちろんないが、「グレーな弱者」に他ならない。
> おそらく、Mは働こうと思えば働けるだろう。今でも、酒を飲み、毎日時間を持て余して自由気ままな生活を送っている。もちろん、生活保護受給者のすべてが、Mのような人間であるという偏ったイメージづけをすることは避けなければならない。働く意欲に溢れていても働けるだけの体力がなく、飢えに苦しむ人もいるのだから。
> しかしながら(Mの場合は限りなく黒に近い状態であるにせよ)社会的に「弱者」とされる多くの人々が「白」、つまり「純粋な弱者」ではない「グレー」な存在であることにも目を向けなければならない。
> 少しであれば働けるのではないか、楽をしているのではないか、周りに助けてくれる人がいるんじゃないか……。「努力が足りない」と言い始めれば、ほんの些細なことを理由に疑問を呈することができてしまう。そして、それは一定程度の正当性を持つ議論だろう。
>次のページ>> 闇が救済する漂白された「グレーな弱者」たち
>
>わかりにくい弱者は「あってはならぬもの」
> 今回のMの事例から学べることは多い。
> 審査を行なう自治体や担当ケースワーカーによって、生活保護という制度自体の運用が異なっており、審査を通過する者とそうでない者がいる。
> また、生活保護を受けるべき状況に陥っても申請手続きが面倒であると感じたり、手続きだけではない様々な支援を引き受ける存在としての「政党団体」「貧困対策NPO」に対しても、少なからぬ人が尻込みする「意識の高さ」が存在しており、図らずとも「弱者」の内部に存在する「相対的な弱者」を排除してしまっている可能性がある。
> 近代化の中で、弱者を社会に包摂する方法は、それぞれの社会でより具体的に整えられてきた。そして、弱者を包摂する方法が制度化されることによって救われる者も確かに生まれた。
> しかし、一方で、より機械的な制度化が進めば進むほど、そこから排除される者も生まれてしまうという状況を生み出した。それは「弱者の弱者化」、つまり「弱者内部で『わかりやすい弱者』と規定されにくい相対的な弱者を、さらなる弱者へと仕立て上げる」ことにつながる。
> 「Mは生活保護を受けるべき弱者ではない」と見る人が多いだろう。私もそう思う。しかし、仕事もしない、カネもない、人とのつながりもない彼が生活保護を受けなければ、野垂れ死ぬかどうかはわからないが、もはや「まともな」社会的存在にはなりえない状況に追い込まれていたのも事実だ。
> そこに現れたのが、一見すると弱者の社会への包摂の対極にあるように思えるKのグループだった。事業の軸はヤミ金でこそあるが、厳格化される社会制度から零れ落ちる層とつき合い続ける存在。目的の善悪は別にして、結果的にはMたちにカネと仕事を与え、行政との橋渡しを行なってくれた。「あってはならぬもの」を「あってはならぬもの」が取り込み、漂白する。
> Mたちにとって見れば、「自らの生活を守ってくれる」という機能を持つものとしては、行政も、政党団体も、貧困対策NPOも、そしてKのグループも同様の存在であり、「グレーな弱者」(もっと努力をする余地があるのかもしれないし、貧しいのは自己責任であるかもしれない、怠惰で自分勝手な部分もある弱者)にはKのグループが選ばれたのだった。
>闇が救済する漂白された「グレーな弱者」たち
> 「純粋な弱者」を想定しながらの「相対的強者」による代理論争は、「よき社会」を構想するうえでは確かに重要な議論であるが、それは一方で、「純粋な弱者」を求め、あらゆる弱者を「純粋な弱者」の中に押し込むことで支配する眼差しと表裏一体の関係にあることに、自覚的であり続ける必要がある。
>(それは、震災後「暴動もなく、苦難に立ち向かい、試練に耐え忍ぶ美しい東北人」と「純粋な弱者」を称え、そこからはみ出した途端に「復興マネー・原発マネーにまみれ、パチンコや飲み屋で散在する」と「あってはならぬ弱者」を断罪する眼差しとも相通じるものだ。メディアを通してしか被災地を知ろうとしない者の妄想の中に生きる「純粋な被災者」など、現実の被災地のどこにもいない。眼差しの支配に自覚的でなければならない)
> 2012年の2月時点で、生活保護受給者が過去最高の209万人を突破。支給総額は3兆7000億円にのぼり、これは日本の国家予算の約1割にもあたるという。「引きこもり」は100万人以上いるとの推計もあり、もしかしたら彼らも「受給者予備軍」なのかもしれない。生活保護を含めた社会福祉のあり方は、今後も様々な形で社会問題化するであろう。
> 「生活保護制度を引き締めればいい」と威勢のいいことを言っても、あるいは「弱者を守るために弱者批判をするな」と正論を振りかざしたとしても、それはむしろ「純粋な弱者」から零れ落ちるような「グレーな弱者」を不可視な存在へと漂白し、社会の中で潜在化させていく。
> そして、公的な弱者包摂の制度から零れ落ちた人々は、代替可能な機能を有する自生的かつ非公式的な「弱者包摂の制度」へと吸収され、貧困のループの中で生き続けるようになる。
> Kはマニュアルの公開に何の抵抗も示さなかった。
> 「もうこの方法は広まっちゃって古いんです。儲からなくなってきたしリスクもある。うちは、また別な『シノギ』(仕事)を考えたんで、やり始めているからいいんです」
> 闇のイノベーションが零れ落ちた弱者を救済する。「純粋な弱者」だけが許される社会の中で。
>一昔前の活気を失ったようにも思える都市の盛り場。そこでも「あってはならぬもの」の漂白は進み、表の顔は猥雑さを失いつつある。しかし、ネオンが照らさない闇の中には、デフレやグローバル化、マイノリティーといった、日本社会が抱える問題が凝縮されたもうひとつの顔が見えてくる。次回更新は8月21日(火)。8月28日(火)との2週連続で繁華街の闇に迫る。
>________________________________________
> <ダイヤモンド・オンライン編集部よりイベントのお知らせ>
> 今最も注目される2人の若手論客による初めてのトークライブ!
> 加藤嘉一と開沼博が8月15日に日本の未来を語る
>日時:2012年8月15日(水)開演19時30分(19時00分開場、21時30分終了予定)
>会場:お台場・東京カルチャーカルチャー
>出演者:加藤嘉一(国際コラムニスト)、開沼博(社会学者)、原英次郎(ダイヤモンド・オンライン編集長)
>入場料:前売り券\2000 当日券\2500 (飲食代別途必要)
>チケット販売:8月3日(金)10時よりイープラスにて開始
>お問い合わせ:tcc@list.nifty.co.jp
>チケット購入方法、イベントの詳細はこちらのページをご覧ください。
>『英フィナンシャルタイムズ中国語版』など幅広い媒体で執筆を務め、中国の発展に貢献した人物に贈られる「時代騎士賞」を受賞するなど、日本と中国、そして世界をまたにかけて活躍する国際コラムニスト・加藤嘉一。
>そして、東日本大震災の直後に発売された『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)で見せた鋭い論評が一躍脚光を浴び、最近では社会の闇に切り込む発言から目が離せない社会学者・開沼博。
>共に1984年生まれ、28歳の若手論客が8月15日のお台場で初めて顔を合わせる。メディアが目を背けていた現場にも体を張って飛び込み、そこに眠る真実を発信し続ける加藤嘉一と開沼博。今最も注目される2人が語る日本の未来とは。
>ほかでは絶対に見ることのできない熱いトークライブが開幕!
>開沼博 闇の中の社会学 「あってはならぬもの」が漂白される時代に」の最新記事
> バックナンバー一覧
>• 第5回 第5回  バブルに溺れた元経営者を支える ヤミ金の「生活保護受給マニュアル」 (2012.07.31)
>• 第4回 第4回  マックで眠るホームレスギャルの 「キャバクラ」開業の理由 (2012.07.17)
>• 第3回 第3回  日本とフィリピン、2つの貧困が生んだ 地下契約の「理想」と「偽装」 (2012.07.03)
>• 第2回 第2回  「売春島」の花火の先にある未来 (2012.06.19)
>• 第1回 第1回 取り残された「売春島」に浮かぶもの (2012.06.05)
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>http://diamond.jp/articles/-/22294
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